TGF-β(トランスフォーミング成長因子β)を標的とした乳がん治療に関する臨床試験がいくつか実施されています。これらの試験では、TGF-βのシグナル伝達を阻害することで、腫瘍の進行抑制や免疫応答の強化を図ることが目的とされています。以下に代表的な臨床試験をいくつかご紹介します。
1. Fresolimumab(GC1008)+放射線療法(臨床試験ID: NCT01401062)
- 概要:Fresolimumabは、TGF-βの全アイソフォーム(β1, β2, β3)を中和するヒト化モノクローナル抗体です。
- 対象:標準治療に抵抗性を示す転移性乳がん患者。
- 目的:放射線療法と併用することで、TGF-βによる免疫抑制を解除し、腫瘍排除を促進することを目指しています。 (AACR Journals)
2. Galunisertib(LY2157299)
- 概要:Galunisertibは、TGF-β受容体I型キナーゼ(TGFβRI)を阻害する経口小分子阻害剤です。
- 試験結果:進行性悪性腫瘍患者を対象とした第I相試験では、単剤療法で一部の患者に腫瘍縮小や病勢安定が認められました。
- 開発状況:Eli Lilly社による開発は2020年に中止されましたが、他の研究機関での研究は継続されています。 (ウィキペディア)
3. SRK-181(臨床試験ID: NCT04291079)
- 概要:SRK-181は、TGF-β1の活性化を阻害する高親和性のヒト化モノクローナル抗体です。
- 対象:抗PD-1/PD-L1療法に抵抗性を示す進行性固形腫瘍患者。
- 目的:免疫チェックポイント阻害剤との併用により、免疫応答の増強と腫瘍縮小を図ることを目指しています。 (PMC, BioMed Central)
4. Vactosertib(TEW-7197)
- 概要:Vactosertibは、TGFβRIのATP結合部位を標的とする選択的な小分子阻害剤です。
- 試験結果:進行性固形腫瘍患者を対象とした第I相試験では、安全性が確認され、一部の患者で病勢安定が認められました。 (PMC)
5. GFH018(臨床試験ID: NCT05051241)
- 概要:GFH018は、TGFβRIキナーゼを阻害する小分子化合物です。
- 試験結果:進行性固形腫瘍患者を対象とした第I相試験では、安全性が確認され、一部の患者で腫瘍縮小や病勢安定が認められました。 (BioMed Central)
これらの臨床試験は、TGF-βシグナル伝達の阻害が乳がん治療において有望な戦略であることを示唆しています。特に、免疫チェックポイント阻害剤との併用や、放射線療法との組み合わせにより、治療効果の向上が期待されています。ただし、TGF-βは正常な生理機能にも関与しているため、副作用や安全性の評価が重要です。
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