乳がんとTGF-βの密接な関係


🔬TGF-βとは?

TGF-β(トランスフォーミング成長因子β)は、細胞の増殖・分化・アポトーシス(細胞死)・免疫応答を調節するサイトカイン(細胞間シグナル伝達物質)で、乳がんを含む多くのがんで重要な役割を果たします。


🧬乳がんにおけるTGF-βの“二面性(ダブルフェイス)”

⛑️【早期がん】抑制因子としてのTGF-β

初期の乳がんでは、TGF-βは腫瘍の発生を抑制する働きを持ちます。

  • 細胞周期の停止
  • アポトーシスの誘導
  • 免疫監視機構の強化

この段階ではTGF-βは「がん抑制因子(tumor suppressor)」として働きます。


⚠️【進行がん】促進因子としてのTGF-β

しかし、がんが進行すると、TGF-βは一転して腫瘍の進行や転移を促進する役割を果たすようになります。

  • **上皮間葉転換(EMT)**の誘導:がん細胞が移動・浸潤しやすい形態に変化
  • 免疫抑制作用:がん細胞が免疫系から逃れる
  • 腫瘍微小環境の改変:線維芽細胞や血管新生を促進

このように、TGF-βは「腫瘍促進因子(tumor promoter)」へと転じるため、「二面性を持つ因子」とされています。


📚代表的な研究・論文

  1. Massagué J. (2008)
    • TGFβ in Cancer(Cell誌)
    • → TGF-βの二重性(tumor suppressor から promoterへの変化)を概念化し、多くのがん研究に影響を与えたレビュー論文。
  2. Ikushima & Miyazono (2010)
    • TGFβ signalling: a complex web in cancer progression(Nature Reviews Cancer)
    • → EMT誘導や免疫抑制への関与を細かく解析。
  3. Seoane J. (2006)
    • TGF-β signaling in cancer initiation and progression
    • → TGF-β経路の変異やスイッチングメカニズムに注目。

🧪治療ターゲットとしてのTGF-β

TGF-β経路を標的とした薬剤の研究も進んでいます。

  • 阻害剤(TGF-β receptor kinase inhibitors)
  • 中和抗体(anti-TGF-β antibodies)
  • RNA干渉による発現抑制 など

ただし、TGF-βは正常細胞でも重要な役割を果たしているため、副作用や選択性の課題があり、治療への応用には慎重なアプローチが求められています。


🔍まとめ

段階TGF-βの役割メカニズム
初期乳がん腫瘍抑制因子細胞周期停止・アポトーシス
進行乳がん腫瘍促進因子EMT・免疫抑制・転移促進


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