静注抗がん剤はリンパ行性転移がんには効きにくい!?


私の疑問

  • 抗がん剤(点滴静注)は血行性転移に有効だが、リンパ行性転移には効果が低いのでは?
  • 理由として「リンパ管内への抗がん剤の浸透性が低い」ことを挙げている

→ これは、薬物動態(PK)・組織移行性・リンパ構造に関する疑問


① 基本的な抗がん剤の動き:

点滴静注された抗がん剤は、まず血管内に入り、全身の血流を通じて各組織・臓器に分布します。この際:

  • 血管の毛細血管透過性(特に腫瘍周囲では亢進)
  • 薬剤の分子量・親水性/脂溶性
  • 組織の血流量

などに応じて組織移行性が異なります


② 血行性転移への効果が高い理由:

血行性転移(例:肝・肺・脳など)は、もともと血流が豊富な臓器です。抗がん剤は静注後にこれらの臓器に比較的高濃度で到達します。

  • 肝臓:門脈系と肝動脈で血流豊富
  • 肺:全身循環から直接アクセス
  • 脳:血液脳関門の問題はあるが、一定の薬剤は到達可

→ よって、抗がん剤はこれらの臓器に転移した腫瘍に届きやすく、効果を発揮しやすい傾向があります。


③ リンパ行性転移への効果が相対的に低い理由:

ご指摘のとおり、リンパ節やリンパ管にあるがん細胞に対しては、抗がん剤の直接到達がやや劣ることがあります。理由は:

  • リンパ系は血管系と独立した低圧システムであり、薬剤の分布が限定的
  • リンパ節は比較的血流が少なく、薬剤の分布が不均一
  • 薬剤が血管外に漏出してからリンパに入るには時間がかかる
  • 特に小さな薬剤は、リンパ管への移行性が低い

→ そのため、「リンパ節の微小転移」や「リンパ管内播種」に対しては、抗がん剤単独では治療効果が十分でないことがあるとされます。


④ それでもリンパ節転移に効果がある理由:

とはいえ、実臨床では抗がん剤によってリンパ節転移が縮小・消失する例も多く報告されています。その理由は:

  • リンパ節にも一定の血管網があり、薬剤が循環して届く
  • 抗腫瘍免疫や血管外漏出による二次的な拡散
  • 抗がん剤の濃度が低くても、感受性の高い腫瘍には有効

さらに、近年の薬剤(抗体薬物複合体・リポソーム製剤など)は、より腫瘍組織・リンパ節に集積しやすい工夫がされています。


⑤ 臨床的な対処:

  • **リンパ行性転移を伴うがん(例:乳がん・胃がん・子宮がん)**では、
     → 手術+補助化学療法や放射線療法を併用することが多いのは、
     抗がん剤単独ではリンパ転移の完全制御が難しい背景があるためです。

まとめ(要点):

観点血行性転移リンパ行性転移
血流到達性高い相対的に低い
薬剤効果発揮しやすい個体差・薬剤差あり
対応戦略抗がん剤中心手術・放射線併用が多い

私見:

したがって、「抗がん剤はリンパ行性転移には効果が低い」という見方には一理あるものの、完全に無効ではなく、薬剤特性・腫瘍の感受性・局所の解剖学的状況によって左右されるというのが実際です。


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