1. はじめに
乳がんは、乳腺にできる悪性腫瘍(がん)で、手術・放射線・抗がん剤(化学療法)などの治療を受けても、再び同じ場所や近くのリンパ節に「局所再発」することがあります。このような再発を「孤立性局所再発(ILRR)」と呼びます。本研究では、このような再発に対して、再手術や放射線に加えて、抗がん剤治療(化学療法)を行うことで、再発や命を守る効果があるかを調べました。
2. 要約
ILRR(孤立性局所再発)を起こした乳がん患者に、追加の抗がん剤治療が有効かどうかを検討した臨床試験の結果、抗がん剤を受けた人は、受けなかった人に比べて再発のリスクが減り、生存率も高まる傾向があることが分かりました。特に、女性ホルモンの影響を受けないタイプの乳がん(ホルモン受容体陰性)の人にとって、抗がん剤が有効である可能性が高いと示されました。
3. 導入
乳がん治療の進歩により、多くの人が完治を目指せるようになりましたが、それでも治療後に再発する人がいます。特にILRRは、体の他の部位(遠隔転移)に広がる前兆となることがあり、再発の時点で適切な治療を行うことが、将来の命を守るカギになります。
4. 方法
この研究は、世界中の多施設で行われた臨床試験(IBCSG 27-02 / BIG 1-02)です。ILRRを起こした乳がん患者162人を対象に、次の2つのグループに分けて比較しました。
- 抗がん剤を追加で受けたグループ(85人)
- 抗がん剤を受けなかったグループ(77人)
すべての患者は、再発部分の切除手術または放射線治療を受けた後、医師の判断でホルモン療法なども受けています。
5. 結果
研究の追跡期間(中央値:5年)で得られた主な結果は次の通りです:
- 再発を防ぐ効果(疾患無再発生存率)
抗がん剤を受けた人の5年後の無再発率は69%、受けなかった人では57%でした。 - 生存率
抗がん剤を受けた人の5年後の生存率は88%、受けなかった人では76%と高い傾向が見られました。 - ホルモン受容体との関係
女性ホルモンの影響を受けないがん(ホルモン受容体陰性)では、抗がん剤の効果が特に強く、再発と死亡のリスクが半分以下になったことが示されました。
6. 考察
この研究結果は、乳がんが再発した場合でも、再度抗がん剤を行うことが再発予防に効果的である可能性を示しています。特に、ホルモン療法が効きにくいがん(ホルモン受容体陰性)では、抗がん剤の追加が明確な利益をもたらすと考えられます。ただし、ホルモン受容体陽性(ホルモン療法が有効)の場合は、抗がん剤の効果が限定的である可能性があり、個別に治療法を考える必要があります。
7. 結論
乳がんの局所再発(ILRR)に対して、再手術や放射線に加えて抗がん剤を行うことで、再発や死亡のリスクを下げられる可能性があります。とくに、ホルモン受容体陰性の乳がんの人にとって、抗がん剤は重要な治療選択肢です。患者さん一人ひとりに合った治療を選ぶためにも、再発時には専門医としっかり相談することが大切です。
出典:Lancet Oncol. 2014 February ; 15(2): 156–163. doi:10.1016/S1470-2045(13)70589-8 NIHMS-560872
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